東京高等裁判所 昭和36年(う)1421号 判決
被告人 朴祥鐘
〔抄 録〕
論旨は、要するに原審裁判官は判決を言い渡した際、被告人の原判示累犯となる前科の刑執行の終了時は昭和三一年四月一八日であるのを九月一九日であると誤認し、さらにその旨記載した判決原稿に基き告知したもかかわらず、判決原本には実際の終了時である同年四月一九日に訂正して記載したのは訴訟手続の法令違反であり、なお同裁判官は言渡において、被告人は罪を犯したのも前刑の執行終了後五年以内であるし、判決も右期間内であるから、いずれの点からも法律上執行猶予を付することはできない旨補足説明しているので、もし(イ)前記誤認がなく、(ロ)そして少くとも判決言渡までに五年経過していれば執行猶予の言渡をなし得るとの知識があれば、本件につき被告人に執行猶予を言い渡す可能性もあり、(ハ)さらに判決原本が言渡のような記載であれば、控訴審でその誤りを指摘して、執行猶予の主張をする機会に富んでいたから、前記事実誤認と訴訟手続の法令違反とは、いずれも判決に影響を及ぼすことが明らかであるというのである。
よつてまず事実誤認の主張につき審案するに、右主張の基礎をなす事実は、記録上これを認むべき資料がないし、また弁護人もこの点については何ら立証もしていないのであるが、仮りにそのような事実があつたとしても、被告人が原審判決言渡の昭和三六年四月二八日において前刑の執行終了後五年を経過していたかどうかということは、原審裁判官の告げた判決理由の一部分であり、刑の量定に関し考慮すべき多くの事情のうちの一つに過ぎず、ことに本件の場合においては昭和三三年四月一八日に起訴せられたにもかかわらず、いろいろの事由で審理が長引き、前刑の執行終了の日である昭和三一年四月一八日を過ぎて、同月二八日にようやく判決宣告に至つていることは記録上明白であり、このような場合には右期間経過という事実の重みは一層減少せざるを得ない。もしそれが累犯加重をしてはならない場合であるのに、その誤認により累犯加重をするという結果を生じているような場合ならば格別、本件においてはその誤認がなかつたならば、執行猶予の言渡も法律上不可能ではないというもので、しかもその誤認は前示の程度のものである以上、判決に影響を及ぼすことが明らかであるとは到底いえない。
また弁護人は訴訟手続の法令違反についても主張しているが、その法令違反と称するものが判決に影響を及ぼす理由はついに発見することができない。すなわち(イ)原審裁判官が前刑執行終了の時期を誤らなかつたならばとするところは事実誤認の問題であつてさきにふれたとおりであり、(ロ)原審裁判官の刑法第二五条についての見解を云々する点は、右訴訟手続の違反とは何の関係もないし、さらに(ハ)判決原本が言渡のとおりに記載されていて、前刑執行終了時の誤りを指摘しても、本件の場合には累犯となる前科であることには変りがなく、その誤りがなくても必しも原審の刑の量定が軽くなるというわけではないから、それが判決に影響を及ぼすことが明らかであるとはいえないのである。
(小林健 松本 太田)
註 本件は量刑不当で破棄